2007年12月27日木曜日

ビートルズから11thセプテンバーまでが僕のお話




「トミーと僕」のタイトルは副題をつける「ビートルズから11thセプテンバーまで」

『翼はいつまでも』







川上 健一(かわかみ けんいち)
出版:集英社文庫 2004年
定価:650円(税込)
ISBN4-08-747699-5


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なん読掲示板で、mimosaさんがお奨めしてくだ
さった本。児童文学にお詳しいmimosaさんの推
薦ならと読んでみました。主人公は中学生の男の子で
すが、大人が読んでも十分に楽しめます。むしろ、大
人だから、かつての自分を思い出せるよすがとなるか
もしれません。ストーリー展開は、芦原すなおの「青
春デンデケデケデケ」を思わせるものですが、あれよ
りもちょっと散漫な文章ながら、みずみずしさでは勝
っているかも。

青森の中学でおちこぼれだった僕が、夜中の米軍放送
で出逢ったビートルズの歌をきっかけで、変わってい
けると思った。自分の思うとおりに生きていいんだと
応援されているような気分になり、誰かにこの想いを
伝えたく、教室ででたらめな英語で歌う僕。クラスの
目立たない女の子斎藤多恵が、いい歌だと言ってくれ
た。翌日から教室中が「プリーズ・プリーズ・ミー」
であふれた。

そのことがきっかけになったのか、僕はレギュラーに
なった。そして、僕らのチームは市の新人戦で優勝。
県大会をも狙えるほどの実力をつけ、三年になった。
県大会は、みんなで行こう。そう誓って練習してきた
僕らだった。しかし大会当日、田口先生は野球部の三
人を相撲の大会に連れて行ってしまう。呼び戻そうと
立ち上がったのは僕と輪島。そしてその場になぜか、
斎藤多恵の姿が・・・・・

60年代の田舎の中学生。「青春デンデケ」の主人公
がベンチャーズに目覚めたように、この小説では、ビ
ートルズを初めて聞いて目覚めたのです。それはまる
で生き方そのものを教えてくれるかのように。それに
しても「プリーズ・プリーズ・ミー」を「お願い・お
願い・わたし」と訳す主人公の英語力を何とする。笑
えますね。

自伝的な小説ということで、著者の実体験がベースと
なっているらしい。前半は、学校とビートルズをめぐ
るやり取り。後半は、斎藤多恵と主人公神山君との初
恋がメイン。と言うより、私には斎藤多恵がまさに主
人公に思えました。主人公が聞かされた断片だけでも、
波乱万丈の少女時代。この女の子でも十分に主役が張
れます。     

「ぼくたち三人は畑の中が守備位置だった」

『本当にヘッペしなきゃ子供ができねえのか?』

「だけどぼくたちはビートルズをききつづけた。当た
り前だ。一方的な大人の命令をまもって、好きな音楽
を聞かないなんてバカげている」

『いまの大人みたいにはならない。わたしはわたしに
なるんだ』

斎藤多恵のキャラクターや能力は、ちょっと前の少女
マンガに出てきそうなスーパー少女。いくらなんでも
こんな少女がいたはずはないと思うのですが、まるで
目立たない少女が、じつは、という「水戸黄門」的な
裏返しの魅力。

思えば、平凡を装う主人公のキャラクターにしても、
ほんとうは非凡であり、私自身が中学生当時には神山
君にも斎藤多恵にもなれず、さりとて東山君にもなれ
ず、しいて言えば輪島君。まあ、あそこまで不器用で
はなかったですが。輪島君の個性も面白いです。後半
はちょっとできすぎのストーリーで、これでは斎藤多
恵の将来をどう作るのか心配になったのですが、これ
はもう、恐れ入りました。そこまでやっつけてしまう
とは。

小説の構成などには文句をつけたくなる部分がなきに
しもあらず、ですが、何と言ってもついつい先を読ま
されてしまう魅力にあふれています。

2時間20分


スーパーのチラシのモデルにほれました


評価  ★★★★

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