2007年8月18日土曜日

犬は死に絶え、宇宙船の中に残るのみ。


[映画] 『サイレント・ランニング』 ダグラス・トランブル監督




地球上では植物は死に絶え、今では宇宙船のドームの中でわずかに栽培されるのみ。植物学者のローウェルはこの地で3年間過ごしてきたが、ある日ドームを爆破し地球に帰還せよとの命令が下ったことから、彼は他の乗組員を殺害し船をジャックしてしまう。



SF映画のカルト作として有名な72年の作品。中盤以降は乗員一人とロボット2体だけになってしまうのでセリフが極端に減りますが、植物にまったく愛着もなく望みはさっさと地球へ帰還することだけという他の乗員相手に主人公が心情を吐露する序盤のやりとりに、この映画のメッセージは大方集約されているようです。ここまで明快な環境問題への警鐘がこの時代の娯楽映画の中に存在していたことにまず驚きますが、その後の展開はあまりにも奇妙な方向へ。

手塩にかけた最後の希望である植物たちへの愛情故殺人まで犯してしまう主人公は、形の上で許しを請う真似をしますが、その後メンテナンス作業中の事故で貴重な仲間であるロボットを失ったり、自分の過失でさらにもう一体のロボットを破壊してしまった後にもあっさりした対応に終始するばかりで、あまりにも身勝手な人間として描かれます。これは何かというとエコ、エコ叫ぶけれど、自然重視のあまり人間としてどこかおかしいんじゃないかというありがちな類の人種への揶揄とも取れ、それは脚本にマイケル・チミノが加わっていることや主題歌にジョーン・バエズを起用していることからもわかるようにヒッピー精神を継承しつつ、一体どちらに受け取ればいいんだろうと大変戸惑わされるものになっています。

いつも個性的なブルース・ダーンですが、これが代表作といってもいいほどの鬼気迫る好演。とりわけ自然との調和を求める苦行僧のようなローブ姿がとてつもなく違和感を醸し出して印象深い。

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